新しいツーリズムの創生の提案

 

京葉ツーリスト株式会社

入木田 健一

   序文

『私は、この「旅行産業経営塾」で学んだことを、育てて頂いた地域に持ち帰り、ツーリズムによる地域振興と地域生活文化向上に貢献し、幸せで安心安全なまちづくり、しいては国づくりの一助となりたいと考えます。更には同志の皆様と常に精進しあい、高いスキルを一人でも多くのお客様に提供し、お客様の幸せと我々の業界で働く人々の笑顔の好循環を目指します。そして、ご指導頂く諸先生方、43名の同志の皆様OB先輩諸兄の中で沢山の「人儲け」をさせて頂きたいと思います。
 最後に、この機会を与えて頂いたすべの方々に感謝申し上げ決意表明と致します』
2010年5月22日の入塾式における決意表明です。規定の45秒で読み上げるよう何度も練習しました。

1999年トラベルジャーナル誌々上で経営塾開校の記事を読み、非常に興味を持ちつつも「毎月週末に東京まで通いすべての講義(コマ)に出席するのは無理」と決めつけ、更には大手旅行会社や業界内で自他共に認められている専門会社の経営者・スタッフの勉強会と思い、どこか羨望の目で見ていたような気がしました。そして受講できる環境が出来ればいつか参加したいと思っておりましたが、2004年休塾の記事を見た時も、残念だが縁がなかったと云う感覚でした。
 1992年4月にそれまで7年勤務した中堅の旅行会社を退職し、縁があり独立をしてからは青年会議所を始め様々な会合の講演会やセミナーも受講し自分なりに勉強はしてきたつもりですが、そのひとつひとつに速効性がある訳ではなく、身心のどこかに蓄積されているものかとは思いますが、そのカードをどのタイミングで出したらいいのか、また出しはぐったりの日々年々でありました。
 しかし、この勉強や体験もよく考えると全て利己的なものであり、利他のことなど考えもせず自分や会社の利益に繋がることだけしか考えてなかったかと思います。そんな羅針盤を持たない船を操縦するような経営が続くうちに会社の方向性を決めるべく経営指針・経営理念の策定に取り組み、2006年に出来上がった経営理念の方向性は旅行業を通して地域振興に貢献する、と云うところに行き着きました。そしてそれから4年後、ドイツ大会開催から南アフリカ大会開催へのタイミングのごとき、旅行産業経営塾再開の記事を見つけ、それまでは言葉だけの経営理念を実戦に移す絶好のチャンスと捉え、迷い無くエントリーをさせて頂き、前記の決意表明に強く意識し宣言をしました。

   まちづくりと観光振興と旅行産業

2007年3月、国土交通省(当時)は旅行業法の施行規則を改正。それまで募集型企画旅行(以下パック旅行)が実施出来なかった第3種旅行業者についてその取り扱いを諸々条件があるものの地元催行分に限って解禁され、旅行業者によるパック旅行の「着地型観光」がスタートしました。今まで殆どの旅行産業は都市部などの発地に存在し、そこから出発するツアーを作って観光地へ送客し、極端に云うと名所旧跡めぐりや温泉や宴会が目的の観光旅行か、視察や研修・イベント参加などが目的の観光旅行でまた発地に帰って来ると云う内容が大多数を占めておりましたが、大手パック旅行に見られる現地集合・解散型(現地添乗員)の募集旅行や、今から10年前の2001年には南信州観光公社が体験型観光を、学校へ売り込むことから始めて今でもほとんどが団体への体験型観光プログラムの提供がメイン事業として成功している例など、ビジネスとしてそのスタイルは一部では既存しておりました。
 
「地元の事は地元の人に聞くのが一番」 旅先で穴場を探すようなときに、よく出る会話かと思います。事実私も初めて訪れる添乗先などでは、その地域の友人やその紹介者から情報を得ることは多々あります。パック旅行としての着地型観光の地元催行分解禁の背景として、政府や観光業界などは、目的地に所在する旅行業者が企画するパック旅行は、地元の事を良く知る地元の業者であれば、それだけ面白いパック旅行を企画できるのではないか、という理屈もあるようです。
 着地型観光が注目される1つ目の理由は、旅行者のニーズが細分化している点にあります。まず近年では旅行者が団体行動を避ける傾向があることから、一緒に旅行するグループの構成人数が少なくなっています。その上旅慣れた人が増えたので、旅の目的も「より明確に」「より深く」なっており、特に団塊の世代では、そのような傾向が強いと言われ、着地型旅行の潜在的ニーズとマーケットは大きいと思われます。もう1つの理由は、地域振興との結びつきが期待できる点。例えば格安のバス旅行など、従来型の発地型旅行では地元の利益はあまり期待出来ませんが、他方着地型旅行の場合は、地元の旅行業者や関連業者(宿泊業者など)の利益確保が期待出来ることにあります。また観光資源を発掘すること自体が、まちづくりへの支援になります。これに関して日本商工会議所は、2004年に「まちづくりの観点に立った観光振興」を政府などに提言しています。
 
今回の業法改定で旅行産業(旅行業者)が事業として取り入れることで自治体、観光協会、商工会議所、NPOなどとコラボレーションをし、外部からの観光客誘致に取り組んでいる地域は多くありますが、このような取り組みや旅行商品が存在することを知らない都市部の消費者も多く、今後は魅力ある商品づくりだけでなく、いかに有効に宣伝し、消費者に認知してもらうような情報を発信するか、どれだけ充実した販売チャンネルを構築出来るか。本来、いわいる「足」「あご」「枕」を手配することを得意としている旅行産業がその中の「足」がないだけではありますが、送客先施設のコミッションに依存度が高かっただけに、それが商いとして・産業としての収益を見出すにはまだ課題が多くあるようです。

   我がまちを語ろう

各地域には町会や自治会・マンションの管理組合、そして商店会、更には老人会や県人会など沢山のコミュニティがあります。そして、それぞれの単会が協力して、連合会や商店会連合会などの交流の場もあり、各会の会長や役員の方々が本業や家庭の時間を割きながら活躍されております。しかし、一般の方やその会に未加入の方などは興味があっても、よほどのキッカケや役員になる覚悟?でもない限り参加することはない、いや出来ないと思います。
 そこで、町会とか商店会などの括りを作らず・垣根を越えて近隣の皆様と地元を離れてほかの地域や都市を見ながら我がまちを語るチャンスがあったらいかがでしょう。
  「袖(そで)振り合うも多生(たしょう)の縁(えん)。。。」この世には約60億人強の人口がいて自分が生きて死ぬまでに出会う人は何人居ると思いますか?毎日新しい出会いが来る日も来る日もあり一日一人と出会っても80歳まで生きても死ぬまでに出会う人間は29千人です。60億分のたったの29千ですが、現実問題29千人なんて無理な話しです。袖でなくてもすれ違うだけでも縁です。まして同じ地域で生活するもの同士のご縁。とても素敵なことだと思います。
 今更ですが、新聞広告やパンフレットなど、実に沢山の発地型パックツアーが企画・販売されております。中には、どうやって利益が出せるのか不思議なほど激安のツアーも少なくありません。
 その内容の善し悪しは実際に参加した人々個々の趣向や価値観によるものかと思いますので、一概に内容をコメントするつもりはありません。
 個人情報保護法の問題以前より、各旅行会社のパックツアーは名簿の配布や旅行中での自己紹介などはプライバシーの観点から、一切行わないのが現状です。確かに名簿の配布は今の情報時代にはいささか問題があるかもしれませんが、せっかく1日なり数日を共にする同士、一言も交わさないなんて、とてももったいない気がします。そこで、法律的問題をクリアする点は多々あるかと思いますが、その点は地元で活躍する専門家も巻き込んでその垣根を取り払い、地元を発着地とし、1回のツアーは少人数(20〜25名程度?)に留め一期一会を大切に中身の濃い旅行が催行出来たらいかがでしょう。四季折々季節に応じた旅、新名所を訪ねる旅、博覧会など催し物に参加する旅など。具体例を挙げますと2012年に開業する東京スカイツリー、2013年に執り行われる伊勢式年遷宮など「行きたい」と思っては見ても「その一歩」が踏み出せない方々、いわゆる「旅行潜在需要」は老若男女にかかわらず相当数潜んでいるかと思います。さらにはリピーターのリクエストに応じたツアー、そして発地旅行に限らず地元の見どころや飲食店を探索する地域にいながらの観光や食事会や定例会なども催しが出来たらその地域と旅行産業双方のwin-winが構築出来ると確信しております。 地域を愛している方、旅行はしたいけど友だちが見つからずなかなかチャンスのなかった方、小グループで旅行に行きたいけどバスを借り上げるほど人数が集まらないサークルの方々等々いろいろな方が集い袖を振り合いながら親睦を深め、楽しい時間を共有して地元に戻ってからも、様々なおつき合いを通して、行政が作るハコモノや大企業誘導型の施設建設に頼らない素敵で安心で安全な地域を築いて行ければこんなに素晴らしいことはないかと思います。
 そして、各地の旅行業者が協力しあい、この「我がまちを語ろう」のスタイルが各地域にアメーバの如く広がって行けば、国家としても税金も役人も負担を掛けずにいい国づくりが出来ると思います。
「さあ、みなさんで、街を語り、旅を語りませんか!!」と地域に呼びかけます。

 

   旅行産業人として

私が旅行業界に入社した四半世紀前の1985年はつくば万博開催など日本中が未来に向けて大きな期待を寄せ、すべてが右肩上がりで旅行業界は就職戦線で云う花形業界でした。旅行取扱主任者(当時)も人気資格として世間の認知度も非常に高かったと記憶しております。実務に対する低賃金や労働時間・休暇など問題点が無かった訳ではありませんが、やればやっただけの成果があり、国内外への添乗・出張やお客様や取引先など多くの人々との出会いがあり、人間としてとても生き甲斐のある楽しい仕事(産業)で、現在も紆余曲折も多々ありますが、楽しく仕事をさせて頂きその充実感や達成感を旅行産業で働く若い世代の方々に共有して頂きたいと願ってやみません。
 会社組織を離れて久しくなりますが、現在の旅行業界は会社により多少の違いはあるかとは思いますが、分業化や雇用形態の細分化、また企業の効率を優先するあまり、そのやりがいや生き甲斐すら見出せず業界を去って行く方が後を絶たないと聞きます。又現職として頑張っている旅行産業の社員が忙しくて旅行にも行けないと云う本末転倒な状況が起きているとも伺います。旅行取扱管理者の資格も新聞のコマーシャルに載ることもなくなってしまいました。
 Eコマースと云う黒船の出現に旅行業界のみならず様々な形態で消費者がその商品の購入やサービスの提供を受ける際、
時間と場所の制約という障壁を取り払われ、我々の旅行産業も店舗販売からWEB販売へのスイッチングにも拍車がかかっています。今更ですが、深刻な問題は消費者(旅行者)と供給者(交通機関、宿泊、観光施設)が直接繋がり、旅行会社・旅行産業の存在そのものがかなりの部分で問われています。「かなりの部分」と表現したのはある宿泊施設の経営者から聴いた話しですが、施設としても直接お客様を集客出来るメリットはありますが、旅行会社も相手に出来ない素行不良客が直接申し込んで来る」「クレーマー、思いこみ、当日ドタキャン・ノーショウ、連絡先が不実」「お客様に不明な点が多すぎるので確認・説明が大変」であれば旅行会社に手数料を払ってでも、優良なお客様を送客して欲しいと云う需要も顕在していることも事実だからです。又、消費者側としても情報過多の中で必要な情報をみつけるためにリテラシー(情報活用力)が求められ、手数料と云うコストを払ってでもプロのアドバイスを受けたいと云う層は必ずいらっしゃいます。
 旅行産業は交通機関の代理店として単に発地→着地の手配を代行するだけのケースもありますが、我々の「出番」はその経験値や業界内のネットワークを駆使した情報、そしてこの産業にかける「想い」「心」ではないでしょうか。「インターネットの出現による直販」「ノーコミッション」などという文言は2011年を迎えた今はもう驚きもしませんが、旅行産業は供給者側の単なる代理、単なるチケットエージェントであればその存在は限りなく消滅するでしょう。

新しいツーリズムの創生の提案

これからの旅行産業のキーワードのひとつは、「地域との連携」、「地域との協働」にあると思います。市場環境が劇的に変化する中で、旅行会社、施設、観光地域のそれぞれが厳しい状況に直面し、生き残りをかけた自己変革を迫られています。その三者が共通して目指すものは、地域の新しい観光資源を発掘し、地域の観光魅力を消費者に伝え、より多くの旅行者に訪れて頂くことです。
 新たなデスティネーションや新たな切り口の旅行商品を模索する旅行会社、従来の団体中心から個人旅行者にとって魅力ある施設づくりや商品開発に努力する供給サイド、そして新しい観光資源や観光魅力を見出し、作り出しながら、市場との十分な接点がもてずに誘客に結びつけ切れていない地域が、互いに連携し協力することにより、それぞれがメリットを享受できるwin-win-winの関係を作り出すことが可能です。
 そのための第一歩は、旅行産業が徹底してさまざまな地域に足を運び、地元の観光関係者から直に話を聞き、実際に観光資源を見て、体験することにあります。宿泊施設の経営者から、「旅行会社の商品企画担当者は会って話をしても、ほとんどが料金交渉で、地域の観光資源や旅行者のために新たに整備した観光プログラムに興味を示してくれない」という声があがっています。旅行会社の社員が実際に様々な観光地に旅行者として出かけ、その地域での滞在や観光を自ら楽しむことをしなければ、顧客にとって魅力のある旅行商品を企画造成することは困難です。また、現地を体験するのであれば、狙いとする顧客層の視点で見ることが重要です。
 次に考慮すべきことは、観光地を育てるという視点に立って、短期間での営業成果のみを期待せずに継続的に地域とのかかわりを持つことです。地域や施設から旅行会社に新しい商品企画を提案しても、相当数の集客が見込める商品でないと企画に取り上げてもらえない、とも聞きます。例えば由布院や黒川温泉が今日のような注目を集めるまでには、30年以上の長期間に渡って観光地づくりに取り組んできた歴史があります。顧客のニーズをつかんだ商品であれば、当初は少ない集客で採算割れするような企画であっても、必ずいつかブレイクする時が来るとの信念をもって辛抱強く商品の投入を続けるべきです。
 さらに、テーマづけによる新たな付加価値は、成熟段階を過ぎた既存の観光地を再活性化する有効な手法であり、これまでこうした観光地への送客によって収益を上げてきた旅行会社が、今後真剣に取り組むべき課題です。団体旅行中心の商品企画において旅行のテーマは、さほど意識されませんでしたが、多様な趣味・興味をもつ個人が中心の旅行市場においては、従来の多くの旅行者を集めた観光地でさえも地域の個性やテーマ性を打ち出さなければ、消費者から背を向けられ衰退の一途をたどることは、多くの観光地における実例が示しています。一方、テーマの打ち出し方によっては、従来オフシーズンであった時期の集客を底上げすることも可能です。海外旅行の市場においては、カナダの秋(メイプル街道)、北欧やアラスカの冬(オーロラ)、ドイツの冬(クリスマス)など、日本人観光客のオフシーズンにその地ならではの観光資源を活用したテーマ性を打ち出すことで、需要喚起に成功している例の枚挙に暇がありません。国内でも、流氷や厳しい寒さをテーマにした冬の北海道や、雪の中の合掌造りをライトアップした冬の白川郷などは、テーマと地域の個性を活用してオフシーズンの集客に成功した例と云えます。
 今後こうした取組みを行う際に、地域および旅行産業双方が、より一層配慮すべきことは、継続可能なツーリズムの考え方を取り入れた観光資源の開発・保護です。長期間に渡って多くの観光客に楽しんで頂くためには、旅行商品の核となる地域の自然や歴史・文化といった観光資源の保護は当然のことながら、観光地の地域住民の生活や環境、経済に対する配慮も計画的かつ持続性をもってなされることが不可欠です。従来、ともすれば「資源消費型」の大量集客観光に傾きがちであった観光旅行のスタイルを見直し、新たな持続可能な観光のスタイルを模索し、確立すべき時期に来ているのではないでしょうか。

〜あとがき〜

親しい会計事務所経営の友人から聞いた話しですが、旅行会社でもありクレジットカードで有名なアメリカンエキスプレス社は本拠地であるアメリカ本国での現在のメイン事業は顧問会計業務となっており、そしてその顧客に対して旅行のコンサル業務と同時若しくはそれ以上にファイナンスのアドバイスをしているそうです。今その友人とは多くの共通顧客を抱えており、コラボレーションを模索しております。
 第二次世界大戦後の頃からのアメリカでは気の利いた人はそれぞれの「主治医」と「顧問弁護士」と「お抱えのトラベルエージェント」を持っているものだと云われた時代があります。それはトラベルエージェント「旅行産業」の社会的地位が医者や弁護士と同じように評価されていると云うことではなく、その機能が重宝がられていたからのようです。
 医者・弁護士はどちらかと云うと人間社会の暗い側面を救う役割を果たしていますが、これに対し旅行産業は人間の明るい側面を担当し人々の楽しみや喜びをより大きく豊にすることを使命としています。そして現代は、ファイナンスの重要性が謳われお抱えの税理士・ファイナンシャルプランナーがそれに加わったと云ったところかと思います。
 独立の時、「it’s Your agent」と志を掲げ、サプライヤーの代理では無く、旅行者の代理として精進して行こうと気概で始めました。今また原点に立ち返り、「その一歩」が踏み出せない方々に旅の素晴らしさを伝えると同時に旅行産業の一兵卒として業界発展と明るい地域づくり・国づくりに邁進して行きたいと思います。

ご教示頂いた諸先生方、OB先輩諸兄、そして同志の皆様に御礼申し上げます。ありがとうございました。

2011年3月26日

[参考文献]

着地型観光とまちづくり / 大阪観光大学 尾家建生、立命館大学経済学部教授 金井萬造時代を読む新辞典 / 日経PB社 更なる国内旅行振興に向けて 新時代の旅行業の役割  / (社)日本旅行業協会